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親就が熱い
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ネタまとめ一発目。
イケメンゆえに許されるセクハラというかみんな気付かないみたいになってしまった…そもそもこれセクハラ?


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 胃が痛い。
 三年前の春に新卒で入社したこの会社は元就にとって仕事のしやすい環境であったが、最近は出社するのすらも憂鬱で仕方がなかった。
 午前半休を貰って医者に行ってみれば、胃カメラを飲むことになって判明したのがストレス性胃炎だった。
 自身は逆境には強い方だと思っていたが、こうも毎日繰り返されると流石に堪える。絶対的な存在の上司を目の前にして、元就は無意識に胃を押さえた。
「おはよう」
「…おはようございます」
 この男を前にすると、脂汗が額に滲んだ。元就はなるべく早くこの場から去ろうと努力したが、狭い通路ゆえに簡単には抜けだせなかった。
「おっと」
「あ、すみません部長」
「おう、気にすんな」
 自分のデスクに向かおうとしていただけなのに、その道を上司が塞いでしまったのでここからはもう耐えるしかない。背後にはコピー機の並ぶ一角を仕切った冷たいパーテーション。他の同僚がその通路を通った為に必然的に上司の体が元就に圧し掛かる。
「…悪いな、狭い会社でよ」
「……ひっ…!」
 元就は息を詰めた。上司の大きな手のひらが腰に回り、そのまま下へ向かった。
 上司の手が尻を撫でたかと思うと、恐らく中指と人差し指であろう、尻の割れ目を沿うように擦る。
「…ぅ…う…っ」
 ぞわぞわと背筋が粟立ち、元就はきつく目を瞑った。耳元で、上司が喉で笑った気配がした。
「あー部長、また毛利いじめてるんですかー」
 しかし耳に飛び込んできた先輩社員の茶々に元就ははっと目を開いた。いつの間にか上司の手は尻から離れていた。
「おいおい、いじめなんて聞こえが悪いな、不慮の事故だよ。…押し潰しちまって悪かったな、毛利」
「あ………いえ……」
「部長ってば体大きいんですから気をつけてあげてくださいよ~」
 仕方ねえだろ、などと笑い合っている上司と先輩社員に頭を下げると、元就は漸くその場から抜けだし、足早にデスクへ向かった。

 長曾我部元親、それが元就を悩ませる上司の名である。元就の所属する企画営業部の部長だが、他と一線を画す程に整った容姿と、頼りがいのある手腕と包容力に、彼を慕う部下は多い。
 勿論生まれてこのかた女性に困ったことなどある筈もないだろうし、立っているだけで周りに人が集まってくる元親を、元就も最初は尊敬し、上司として頼りにしていた。
 一年前まではこんな胃痛に悩まされることなどなかったと記憶している。仕事は覚えることが沢山あって大変だったが、もともと頭もよく優秀な元就はすぐに元親に認められることとなった。
 そんな元親からセクシャルハラスメントを受けるようになってから、そろそろ半年が経つ。パワーハラスメントならばまだマシだった―――部長に、しかも同性に、性的な行為を強要されることに比べれば。
 確かに元就は、大学までずっと共学であったにも関わらず、年上や同級生の男子生徒から告白を受けたことは何度かある。その原因は華奢な体つきと人形を彷彿とさせる美しい顔立ちにあるのだが、そのたびに自分の身は自分で守れたし、ともすれば敵を作りかねない辛辣さが運良く牽制になっていた。
 しかし、会社に入れば当然のことながら、学生のままではいられない。上司や先輩の言うことを聞いて頭を下げることは普通だし、チームワークの必要な仕事形態であれば我を通すことは他に迷惑をかけることに繋がりかねない。初めは元来の性格ゆえに苦労するかと思われたが、上司達に恵まれ、元就は特に壁にぶち当たることなく今日まで来れた、のだが。
「おう毛利、昼食まだなら一緒に食いに行かねえか」
 突然声をかけられ、元就はびくりと肩を跳ねた。まだ昼食はとっていなかったが「先ほど食べたので遠慮します」と言いかけた所を強引に連れ出された。
「部長っ」
「美味い店知ってんだ、毛利も気に入ると思うぜ」
 腹は減っているが元親と昼食など、食事が喉を通る筈がない。
 だが時既に遅し、逃げられないように掴まれた手はやはり振りほどけなかった。


 毎日、元親からセクハラを受ける。誰かに相談しようかと何度か思ったが、「部長に可愛がられてるんだよ、羨ましい」と言われるのが容易に想像出来た。それにどうせ、言ったところで「長曾我部部長に限ってセクハラなんて」と流されるに決まっている。それだけの人望が元親にはあった。
 ある日の就業中、コーヒーを飲もうと給湯室に向かうと、そこには元親と先輩社員がいた。最近ではもう、元親の姿を見るだけで胃が激しく痛むまでになっていた。
「部長は毛利のことお気に入りですね」
 自分の名前が出たことにギクリとしたが、元就はその場から動けず、壁に張り付いてじっとしていた。
「ああ…まあ、アイツ仕事出来るからなあ」
 部長に高く評価されるのは純粋に嬉しい。だが、尊敬すべき上司から受けている仕打ちに心身ともに打ちのめされる。
 気に入っているからセクハラするのか。それともただ遊んでいるだけか。元親は楽しいかもしれないが、元就にしてみれば切実な問題だ。
 こんなに弱くなかった。だがもう限界だ。
 元親の傍にいるのが辛い。
 コーヒーを飲みたい気分ではなくなったので戻ろうとした時、タイミングの悪いことに給湯室から「じゃあお先に」と先輩社員が出てきてしまった。そこにいた元就に気づいて「部長がいるよ」と教えてもらったが、そんなことは既に知っている。
 二人の会話が聞こえたのか、給湯室から顔を出した元親と目が合って、元就は泣きたくなった。
「毛利」
 動けない。足が竦む。
「毛利、おいで」
 呼ばれて、生唾を飲み込んだ。
「ちょうど淹れようとしていた所なんだが、どうせなら毛利の淹れたコーヒーが飲みたい」

「…ふっ…ぅ…」
 淹れるも何も、コーヒーメーカーの抽出口にカップを置くだけだから誰が淹れても味は変わらない。
 そんなことは勿論ただの口実で、背後から抱き込むようにして、スラックスの上から股間を擦ってくる元親に、元就は片手で口を覆った。
「可愛いなあ、毛利」
「っぁ」
 耳朶を唇で食まれ、元就はコーヒーメーカーのボタンを意味もなく強く押した。
「なあ、今日家に来いよ」
 元就は目を見開いた。元親からの誘いに、急激な緊張を覚える。
「今日、定時で上がるから駐車場に来い。A3に停めてある黒のスポーツセダンな」
 元親はそれだけ言うと元就から体を離した。だが愛撫をやめられたからと言って、突然熱が冷めるわけではない。
 股間に蟠った熱を意識しないようにしながら、元就は震える拳を握りしめた。
「…ぶ、部長…我は…!」
「しっ」
 元親に言葉を遮られた。何かと思えば、同僚が給湯室に入ってきた。
「じゃあ、俺は仕事戻るぞ。コーヒーありがとな、毛利」
「……あ……は、はい…」
 同僚は元就の異変にも気付かず、元親に会釈してコーヒーメーカーのボタンを押した。同僚がコーヒーを淹れ終えて給湯室を出ようとしたところ、茫然と立ち尽くす元就を疑問に思って声をかけたが、すぐに出て行き元就は一人になった。
(…………我は……)
 どうして、どうして拒むことが出来ない。


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この後多分駐車場で半分くらい食べられる

 

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