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親就が熱い
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ブログ整理してたらずっと止まっていることを思い出したので続き書いてみました
全体的に♀元就を元親と幸村と伊達の三人が好いてる話なので、苦手な方はスルーしてください~
あと佐(→)かすと慶次も出てきます
1話から読んでもらえれば傾向はわかるはず…

最終的には、元親と幸村と伊達それぞれのエンドを書くつもりです(と今なんとなく決めました)
読み返して思ったんですが、元就のこと好きなのに元就にツンツンしまくりの伊達がなんか凄く萌えます…
6話は続きからどうぞ
そして拍手ありがとうございます!^▽^* また後日お返事に参ります~!

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久々バスケ部続き




 試合は今週の日曜日、つまり練習出来るのは今日の放課後と明日の一日だけである。
 去年のインターハイでの対無双高校戦は接戦だった。一点差で試合には勝てたものの、実力は互角。こちらも練習に練習を重ねてきたが、去年と同じレベルの試合をしていたら大差で負けるのは目に見えていた。それに、最近の若干乱れているチームワークでは益々いけない。
 今年の無双高校は例年に比べて一段と強い。主将としてもチームの一員としても、私生活から気を引きしめていかなければならないのだ。
 ―――だがどうにも、練習中以外では元就のことが気になって仕方がなかった。幸村とは実際どうなっているのか。昨日の二人の様子が重くのしかかって頭から離れてくれない。そして政宗とは何があったのか。元就には、好きな男がいるのだろうか、と。
「…曾我部、…長曾我部元親、長曾………こりゃーッ聞いとるのかっ!!」
「…はっ、す、すんませんっ」
 居眠りをしていた訳ではないが、ぼーっとして話を聞いていなければ同じことである。日本史の北条先生に怒られ、元親は慌てて教科書を開いた。が、どこをやっているのかが分からない為に目線ばかりがうろうろし、くすくすと聞こえてくる笑い声に頬を熱くする。
「もう良いっ前田、代わりに答え……」
 元親から視線を移した北条先生だったが、指名した慶次まで机に涎を垂らして爆睡していたので、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「きっ…きえええええっ!!」
 激怒し奇声を上げた北条先生だったが、しかし説教を始めて五分経つ頃には何故か昔の自慢話へと変わっていた。若い頃はバリバリのスポーツマンでモテモテのより取り見取りで云々…この話は今学期に入って既に三回は聞いているが、聞く度に内容が少しずつ変化している。歳の所為で若干記憶が曖昧なのだろう。
「また北条さん怒らせたの?何回目だよ三組は…」
「前田と長曾我部が揃っている時点で授業を円滑に進めるのは夢のまた夢だな」
 授業が終わっても未だ教壇で語り続けている北条先生に、授業を終えてやって来た隣のクラスの佐助が苦笑した。佐助の横にいるかすがはため息をついた。
 席を離れて佐助達の元へやってきた元親は、うるせぇ、と口の中で呟きつつも、周りに迷惑をかけているのは事実なので強く出られない。慶次に至っては未だに爆睡していた。
「ところで、何か用か?」
 基本的に用がなくても遊びに来るし遊びに行く関係なので聞かずとも良いのだが、何となくと言う理由で様式化されたやりとりに移ろうとした元親に、佐助も予想通り「何もないよ」と返した。
「今から一組に行くから寄ったんだけどさ」
「…ふうん?なら早く行った方が良いんじゃねぇの」
 悠長に寄り道していられる程、授業の中休みは長くない。気を使って、じゃあなと手を振ろうとした元親だったが、「一組だよ?」とやけにそこを強調する佐助に首を傾げた。
「おう…それがどうしたんだよ」
「一組の、毛利さんに用があるんだけど」
「……………」
 黙る元親に、佐助は満面の笑みを浮かべ、かすがにいたっては明らかに面白がっている顔をしていた。
 佐助だけでも厄介なのに、かすがにまでからかう側に回られたら、精神的にズタボロにされるに決まっている。元親はなんとか笑顔を返して対応を試みた。
「……あのな、用があるってことは委員会か何かなんだろ?そんな時に俺が行っても場違い…」
「そっか、余計なお世話だったよな、ごめん。そんじゃかすが、行こうか」
「ああ」
 しかし思いの外あっさりと去って行こうとする佐助とかすがに、元親はあれ?と目をしばたかせた。
「お…待て待て待てって!」
 慌てて引き止めれば、今度は佐助達が不思議そうな顔をした。勿論元親は、もう少し強引に元就の元へ一緒に行こうと誘ってもらえることを期待していたのだが、二人は元親の期待にそってくれない。引き止めた手前、引くことも出来なくなった。
「どうしたんだ、長曾我部」
「う…」
 わかっているくせに、かすがは無表情で聞いてくる。
 正直、元就に会えるなら会いたいと思う。ついでに話が出来れば最高だ。同学年と言う強みだけは、幸村がどんなに頑張っても手に入れられない元親の特権である。
「…いや…その……」
「旦那~悪いけどもうあんまり時間ないんだよ~」
「……えーと…あの……」
「…もういい、行くぞ、佐助」
 焦れたかすがが踵を返すと、佐助もやれやれという顔で両手を上げ、彼女について三組の教室の入口から離れた。残された元親はあまりの展開に口をぱくぱくさせる。
 このままでいいのか、もしかしたら元就と何かしらのイベントが発生するかもしれないのに、本当にこのままで―――。


「そうか、では広報に時間を充ててくれ」
「頼んでおいて何だけど、そんな簡単に決めちゃって大丈夫?」
「図書委員で特に報告はない。必要があれば後日プリントにして配れば良いだけのことよ」
「悪いな、助かった。生徒会へはこちらから伝えておく」
 一組の教室の前の廊下に出た元就達三人はどうやら、週明けの生徒総会についての打ち合わせをしているらしい。佐助もかすがも放課後は部活で忙しいので、休み時間を有意義に使っていた。
 その有意義に使うべき時間に、俺をからかう時間も含まれているんだなぁと、彼らの声を聞きながらも話に入れない元親は遠い目をするしかない。
 有り体に言えば嵌められた訳である。わかっていたことだが。
「いや~、本当に助かったよ!ありがとね、就ちゃん」
「……ん?」
 飛び込んできた佐助の明るい声に、元親はふと違和感を覚えた。今、佐助は元就のことを何と呼んだ。
「……『就ちゃん』…?」
 いつのまに就ちゃんなどと呼ぶ関係に、否、かすがを入れた三人で彼らは仲が良い。しかしずっと、毛利さんと呼んでいた筈だ、少なくとも元親の前では。
「…………」
 おそらく元親に気を遣ってのことだろう。佐助がかすがを好きなことも知っている。しかし―――、
「あ、そうそう、この人がさー就ちゃんと仲良くなりたいんだって」
「………えっ!?」
 佐助と元就の仲に気を取られていると、突如話を振られて元親は大袈裟にうろたえた。のこのこ付いてきたのは自分だが、心の準備が出来ていなかった。
 佐助に背を押されて元就の目の前に進み出た。身長に差があるせいで、胸の辺りから見上げてくる元就の瞳にドキドキする。元親から見える元就は自然と上目遣いになるので、更に心臓は激しく脈打った。
「うっ、ぅえっ、えええ…!?」
 試合を見に来ないかと誘った時も勢いでとは言え多少喋ったし、過去に話したことがないわけではない。ただこんなに間近で元就と見つめ合ったことはなかったから、いつになく緊張して舌が回らなくなった。
 だが、元就は忘れているのだろうが、中学生の頃に―――、
「ほらほらぁ、折角なんだから何か話しなよ。とりあえず自己紹介から…」

「…『泣き虫チカちゃん』」

 え?と言う顔をして、佐助とかすがが元就を見た。元親だけが驚きに目を見開いた。
「随分成長したのだな、…昔の面影は、残っているが」
 呆然とする元親の目の前で静かに笑んだその顔は、あの時と何一つ変わっていなかった。



 練習前の部室は緊迫していた。スタメン五人の内三人が剣呑な雰囲気を醸し出していると言う最悪ぶりだ。一、二年の部員達は早々に体育館へ逃げ、残された慶次は困り果て、佐助は大量の冷汗をかいていた。
 結論として、元就は来週の練習試合を見に来てくれることになった。昨日は元就と元親、幸村の三人所か追い付いた佐助と慶次も含めた五人で一緒に帰るハメになったのだが、まあそれは良い。
 元就は、元親と幸村、どちらかの誘いに乗ったと言う訳ではなかった。
「…かすがを誘う時に毛利も一緒に誘ったって言えよテメェ…何が『元親次第』だ」
「いやぁ、たまたまだよ、かすがと毛利さんが一緒にいたから…」
「某がお誘いする前に…佐助…」
「まあまあまあまあ結果オーライじゃない!」
 元親と幸村の二人から睨まれ、佐助は焦りながら弁明を試みた。
 つまり、元親をけしかけた佐助が、その実もう既に元就を誘っていたのだ。勿論故意にそうした訳ではなく、話した通りかすがを誘った時にたまたま一緒にいたから、元就もかすがと二人で見にこないかと尋ねただけだが。あえて元親にそれを伝えなかったのは、元就へのアクションのきっかけをと思った佐助の優しさである。と本人は主張する。
 確かに結果オーライだが、二人にしてみれば納得は出来ない。だがその様子を見て、元親と幸村は互いの本気を改めて感じた。
「…仕方ねぇ、この決着は試合で」
「望む所でござる」
 二人共、自分の気持ちを周りにさらけ出してしまえば、後はもう止まることを知らないらしい。つい先日まで毛利なんて好きじゃない!破廉恥でござる!等と喚いていた彼等の面影はどこにもない。
 睨み合いながら熱苦しく燃え、部室を出て行った元親と幸村を見送った佐助は、もう一人の面倒臭い男に視線を移した。政宗だった。
「政宗は行かねぇの?」
 二人の相手をして疲れた佐助が見守る中、見るからに不機嫌にしている政宗に勇気を出して慶次が声をかけた。若干引き気味なのは本気で怒る政宗が怖いからである。
「…チッ」
 しかし政宗は返事をしてくれなかった。大きな舌打ちだけをして部室を後にした。
「…………」
「…俺らも行こうか」
「……そうだね」
 静かになった部屋で慶次と佐助は顔を見合わせ、同時に溜め息を吐いた。何故こうなってしまったのか、数週間前まではこんな険悪なムードになどならなかったのに。
 本人は全くそんな人種とは程遠いのだが、彼等は最早こう思うしかなかった―――毛利元就は魔性の女である、と。


 練習試合が三日後に迫る頃には、流石の元親達も練習に集中していた。バスケットボールだけでなく、スポーツはチームワークが何よりも重要である。部活外ではまだ若干の確執はあるものの、部活中は皆、女の悩みなど一切出さずに練習に打ち込んだ。
 対戦相手の無双高校は、婆娑羅高校と同じく全国大会の常連である。ゴール下の守護神とまで言われる島左近をはじめ、一癖も二癖もある選手が揃っている。攻撃に特化した婆娑羅高校とは違い、攻撃も守備もバランスの良い無双高校は婆娑羅高校の一番のライバル校であった。故に負ける訳にはいかない。
「十分間休憩!その後走り込み外周!」
 チーム戦のゲームが終わると、元親の声が体育館に響いた。
 幸村が一目散に外に設置された水道へ駆けて行くのはいつものこと。各々水分補給等に散って行く部員達を見渡しながら、元親も着ていたTシャツで額の汗を拭って水分を取りに行く。部員、特に一年生が厳しい練習についてこれているかを気にかけるのも部長の役目だ。しかしそうして視線を巡らせている途中、突如として体育館の入口に意識が釘付けになった。
「――――……」
 途端に動きがぎこちなくなる。隣りにいた慶次が何事かと元親を見ると、すぐに原因が分かった。
「あれって…」
 元親が向くに向けない意識の先に、元就の姿があった。

 元親のこういう所が駄目なのだと慶次は思う。折角吹っ切れたと言うのに、先日五人で帰った時もそうだったが、元親は元就本人を目の前にするとガチガチに緊張して極端に口数が少なくなる。勢いでいける場合は良いが、しかし普段通りの態度で接すれば元就とももっと近付けるだろうに、勿体ないことをする男だ。
「…ん?」
 不意に、体育館全体が緊張感を帯びた。広い館内なのに全体が凍り付くような異様さが入口辺りから漂ってくる。他の部員達のざわめきすら小さくなって消えて行く中、一体何だと元親も慌ててそちらを見やると、元就の前に政宗が仁王立ちしていた。
「帰れよ」
 用件も聞かずに政宗が第一声を発した。二人の間に何があったのかは想像するしかないが、それにしても政宗の様子は尋常じゃない。元就の名前を出すだけで不機嫌になる彼の目の前には、今その元就がいるのだ。
 政宗の恐ろしい程の怒気にあてられれば並大抵の女子ならばすぐに腰を抜かして泣いてしまうだろう。しかし元就は負けていなかった。
「言われずとも用事が済めばすぐに帰る」
「何の用だよ、練習の邪魔なんだよテメェは」
「そうか、休憩を見計らって来たつもりだったのだが、それでも邪魔をしたと言うのならすまぬな。だがそもそも貴様に用はない」
 政宗の奥歯が、ぎ、と鳴った。
「我に早く帰って欲しければ一々突っ掛かるな、餓鬼めが。―――猿飛」
「…はいは~い」
 元就に呼ばれ、佐助が渋々と前に進み出た。
 政宗を置いて元就と佐助が何かを話している。そして数枚の書類を佐助に手渡すと、言葉通りすぐに元就は政宗に一瞥もくれず踵を返した。
 ギリギリと拳を握り締めた政宗が叫んだ。
「Fuck!!二度と来んじゃねぇ!」
 余裕のない政宗は珍しい。どうにも空回りしているようにしか見えない彼に、部員達は戸惑いを隠せなかった。
 すると元就は足を止めて政宗を振り返った。その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「―――二度と、は無理だが、貴様など我の眼中にもないゆえ安心せよ」
「―――――っ」
 冷た過ぎる眼に、政宗は息を飲んだ。
 元就が静かに去って暫く、体育館は嫌な静寂に包まれていた。


 それにしたって、政宗の態度は酷過ぎる。元親は気を持ち直すと急いで元就の後を追って外へ出た。
 どんなに気が強くても元就は女性なのだ。もしかしたら傷付いているかもしれない。近くにいたにも関わらず、何のフォローも出来なかった元親はもういても立ってもいられなかった。
「あ、毛利――――」
 果たして、出て行った先に元就はいた。声をかけようと口を開いた元親だったが―――元就の横にいる幸村の姿に気付いて固まった。
「どうして元就殿がこちらに…」
 幸村はちょうど水道から体育館に戻ってくる所だったようだ。元親は咄嗟に、二人からの死角に身を隠した。
「ああ、猿飛に渡すものがあってな」
「佐助に…ですか」
 幸村は、ならば某に…と小さく零した。よく聞こえなかったらしい元就は、何かを言いたそうにしている幸村に首を傾げる。
「あっいえ…元就殿は佐助と…仲が良いのですね…、……」
「え?」
「いやっあ、何でもっ…!」
 焦って言葉尻が消えた幸村に、言いたいことが分かったのか元就は小さく笑ってみせた。幸村の顔が仄かに赤くなる。
「安心せよ、そなたから猿飛を奪ったりなどせぬ」
「えっ!」
 だがとんだ勘違いだ。
 幸村は違うとも否定出来ず、よく分からない声を発しながら俯いた。
 確かに佐助と幸村は先輩、後輩の仲を越えた家族のような間柄だが、幸村が言いたいのは佐助のことではなく、目の前の、
「これからまだ練習なのだろう?我はそろそろ帰らねば………あの男が煩いしな」
「、あ、あ、はい!」
 元就の最後の呟きが聞こえなかった幸村は背筋を伸ばした後、何故かありがとうございますと大袈裟に頭を下げた。それを疑問に思いつつも、機嫌の良さそうな元就は「では」と言ってその場を後にする。どうやら元親の心配は杞憂だったようだ。
 数歩進んだ所で、「元就殿!」と幸村が叫んだ。
「ん?」
「…み、見ていて下され、元就殿!某、必ずや無双高校に勝利してみせましょうぞ!」
「…………」
 高らかに宣言した幸村は素直だ。
「…楽しみにしておる」
 そして幸村に微笑み返した元就は穏やかだった。

 他の誰も入り込めないような空気を作り出す二人に、元親は立ち尽くす。
 結局、声すら掛けられなかった。平気なフリをしていても、内心政宗に対して思う所も多いだろう。しかしその激情をおくびにも出さず他人とにこやかに接せられるのは、相手が幸村だからだ。
 元親は、自分が元就を呼び止めても上手い言葉の一つも出ないと自覚していた。だが追いかけずにはいられなかった。しかしこれが結果だ。
 元就は初めて出会った頃の元親のことなんて覚えてもいないだろう。
「…………」
 試合を見に来て欲しいと、確かに元親も言った。だが、元就が見に来るのは幸村だ。

 試合はもう三日後だと言うのに、元親の頭の中はぐちゃぐちゃだった。



バスケ部3話目



 久し振りに身の入った練習を終え、部室で汗に濡れたTシャツを脱ぐ元親に射抜かんばかりの視線を向ける男がいた。既に着替え終わり、ベンチで脚を組みながら踏ん反り返る政宗であった。
 初めは気付かないフリをしていた元親だが、着替え中ずっと見られているのは気分が悪い。「何だよ」と声を掛けると、政宗は顔をしかめて舌打ちした。
 政宗は元親から視線を外すと今度は、整理体操と称して物凄い勢いの腹筋運動をしている幸村を睨む。もう殆ど皆着替え終わっているにも関わらず、幸村の着替えはまだまだ先になりそうだった。
 先程から不機嫌に顔を歪めている政宗の視線の先の共通点と言えば、考えるまでもなく毛利元就である。
「…政宗」
「んだよ」
 元親は、練習に身が入っていなかったことを悪いと思っている。部長なのにこんな様では部員達に示しがつかない。副部長の政宗にも迷惑をかけた。だから、明日からもしっかり集中するからその不機嫌を直せと言おうとしたが、それならば何故幸村を睨む必要があるのだろうかと、ふと疑問が浮かんだ。
 確かに元就の件で幸村を正視出来なかった元親だが、政宗の怒声が幸村に飛んだ記憶は特にない。とすれば幸村はいつものように全力で真面目に部活へと取り組んでいたのだろう。ますます謎が深まる。
「だから何だっつってんだろが」
「…いや…」
 いつも口調も目付きも悪い政宗だが、機嫌が悪い時は更に酷くなる。そういえば、あの牛丼屋でもそうだった。元就の話題を出した途端に目に見えて不機嫌になった。部活中元親に怒っていたのは至極真っ当な反応だが―――。
「おやっ!」
「ん?」
「かたっ!」
 唐突に幸村の声が響いた。この掛け声は腹筋終了の合図のようなものだ。
「さばぁぁああああ!!」
 最後の叫び声と共に幸村が勢いよく立ち上がった。そのまま「うおおおお」と声を上げながら汗だくのTシャツを脱ぎ捨てて体を濡れたタオルで拭いていく。
「佐助!制汗スプレーを!」
「はいよ」
 先輩なのに何故か後輩の幸村の言う通りに動く佐助は最早このバスケ部では見慣れた光景だった。用意周到に手渡された無臭の制汗スプレーを、つけすぎではないかと思う程満遍なく体中に撒いた幸村は、一度咆哮してからワイシャツを羽織った。
「うるせぇぞ真田ぁ!」
 そして政宗の堪忍袋はぶち切れる寸前らしい。
「すっすみませぬ!某興奮が収まらずっ…」
 律義に政宗に謝った幸村には、やはり違和感があった。そもそも、制汗スプレーなどとは縁がないと思われる熱血馬鹿である。わざわざ佐助に用意させてまでつけるものでもない。幸村は確かに試合後は興奮醒めやらぬ様子で始終落ち着かないが、今日の練習でそれほど本気になる出来事があった訳ではない。
「興奮って?」
 嫌な予感がして元親が尋ねた。すると幸村は、頬を染めて言った。
「こ、これから元就殿をお誘いするのです!今日は図書委員の仕事で下校が遅くなるらしいので、一緒に帰る約束をしていて…」
 衝撃の事実に元親は数秒固まった後、佐助と慶次に振り向いた。佐助は必死に知らないと首を横に振り、慶次は顔を引きつらせながら笑っていた。
「も、元就殿と二人きりで帰るなんて…き、緊張してしまい、更に試合を見に来て欲しいと誘うのも、某…」
 目を伏せぐっと拳を握り締めた幸村だったが、意外にも言葉を遮った政宗の声に顔を上げた。
「女なんて呼ぶんじゃねぇよ。しかも毛利だぁ?士気が下がんだろ」
「いや、幸村と元親の士気はバリバリ上がると思…」
「Shut up!!」
 またもや気の抜けた声で突っ込んだ慶次を政宗は撥ね付けた。幸村に気が気でない元親だったが、それよりも政宗が異様な程に元就を厭う理由が気になった。
「まぁまぁ良いじゃないの、何もベンチまで連れて来て見せる訳でもないし」
 それに観客には女の子も一杯いるでしょ、と佐助がフォローするが、政宗は意見を変えないようだった。
「アイツが目に入るだけで苛々すんだよ。呼ぶなんて許さねぇからな」
 子供のような言い分で話を強引に終わらせた政宗は、鞄を持ってさっさと部室を出て行ってしまった。まさか政宗が苛々するという私的な理由だけで呼ぶなと言われるとは思ってもいなかった幸村は愕然とする。珍しい政宗の姿に、四人は呆然と彼を見送った。
「……あれは…何かあったんだなぁ」
「何か、とは?」
 慶次のぼやきに、幸村が困惑した表情で尋ねた。何でもないよと濁す慶次に、佐助も幸村の着替えを促す。
 先程浮かんだ疑問の正体を知ってしまった元親は、そんな三人の声を後ろに聞きながら、複雑な心境を抱いていた。

 幸村のことは予想外過ぎて気付けなかったが、政宗はある意味分かりやすい。むしろ、自分と似た者同士だと元親は思った。
「………ライバルが…二人もいんのかよ…」
 それも、二人ともに身近な存在である。
「……………」
 元親は頭の中の靄を払うように激しく頭を振った。そしてしばし考えに耽った後、唐突に鞄を手にした。
「元親?」
「ちょ、鬼の旦那も帰るの……って、」
「幸村ぁ!」
「は、はいっ!」
 もう、意地を張っている場合ではなかった。声高に幸村を指名すると、元親は自棄気味に宣戦を叩き付けた。

「毛利を誘うのはこの俺だ!!」

「…………!?」
 目を丸くする幸村を置いて、元親は部室を飛び出した。
 卑怯でもいい。幸村や他のライバルを出し抜いてでも、手に入れたい。
 数秒後、後ろから幸村が猛スピードで追いかけてきた。だが負ける訳にはいかなかった。
「元親殿ッ!某も負けませぬぅぅああああ!!」
「うるせぇ!!俺だって負けるかってんだ!!」
 部活帰りの生徒達が、有り得ない速さで駆け抜けていく二人を見てあんぐりと口を開けていた。すぐに、校門の横に小さく元就の姿が見えて来る。元親も幸村もどちらも引く気はない。
「毛利ッ!!」
「元就殿ッ!!」
 驚いた顔でこちらを見る元就に、二人は同時に叫んだ。

「今度の試合見に来て下さいッ!!」





続かないつもりでしたが続きが読みたいと言って下さった方がいらっしゃったのでちょこちょこ続けて行こうと思います^^*


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『―――眩しいな』
 霞みがかった思い出は美化される。故の懸想だと己を騙し抜きたいのに、いつ見ても彼女は色褪せなかった。
 想像以上の彩色を放ち、寝ても覚めても脳裏に刻み付いた儚げな表情が忘れられない。
『ああ―――綺麗だ』
 笑った彼女にいつだって胸が高鳴る。これは最早言い訳なんかでは誤魔化せない程の―――…


「元親!」
「…っお、わ!?」
 目の前にバスケットボールを突き付けられ、元親は我に返った。鼻先を掠ったボールには微かな汗のにおいが染み付いていて、この学校のバスケットボール部の歴史の長さを垣間見る。
「何いつまでも休憩してんだ、ダレてんじゃねぇぞ!」
 部長がそんなザマじゃあ示しがつかねぇだろうが、と元親を厳しく叱りつけたのは副部長の政宗であった。ここ最近の心ここにあらずな態度の元親に、いい加減我慢の限界を超えたのである。
「ムソ高との試合が近いって自覚あんのか、exhibition gameだからって生半可な気持ちで勝てるような相手じゃねーだろ」
「分かってる。…わりぃ」
「だったら早くコートに戻れよ」
 顎でコートを差し、政宗は先に行ってしまった。
「…………」
 政宗の背中を見ながら、元親は溜め息を吐いた。バスケに身が入らない、今までこんなことは一度もなかったのに。しかし集中出来ない理由は分かっていた。先日の幸村の―――あの言葉だ。

『某がっ、元就殿をお誘いしてもよいでしょうかっ!』

 まさか、あの幸村がそう来るなどとは予想もつかなかった。恋に対して凄絶なまでに初なのではなかったのか。勝手だが、裏切られた気分だ。
 あの日からもう3日が経っていた。練習試合は一週間後の日曜日。幸村はもう元就を誘ったのだろうか。どんな会話をして、どんな表情を引き出したのだろう。焦燥感ばかりが胸に渦巻き、手のひらがざわざわと痒くなってくる。
 しかし情けないことに幸村を見ることが出来ないので、二人がどうなったのかを推測する事も叶わない。
「…………」
 こんなことならば、意地を張らずに「じゃあ誘ってみようかな」とでも言えば良かった。だが今更である。
 幸村を見に来た元就に、恐らく想像を絶するショックを受けることだろう。…否、今はバスケに集中しなければ。
「もーとーちーかー」
「!」
「鬼のだーんなー」
「!?」
 知らずにまた深い溜め息を吐いていたらしい、なかなか進まない足を見下ろしていた元親は、慶次と佐助がにやけた顔でいつの間にか両隣りにいたことに驚いた。慌てて二人を交互に見てから、なんだよ…と呻く。
 すると佐助がこっそり耳打ちした。
「真田の旦那、まだ毛利さん誘ってないみたいだよ~」
「………え」
「俺ならライバルより先にアタックするなぁ…恋の為ならね」
「………う」
 続いた慶次の囁きに我慢が揺らいだ。硬直した元親の視線の先で、政宗が今にも血管の切れそうな顔でこちらを睨んでいる。
「ちなみに俺はかすがのこと誘ったよ。これ、まだ旦那には言ってないんだよね~…毛利さんってかすがと仲良いし…ねぇ~」
「なっ」
「そう言えば毛利さん、日曜日は毎週暇だって言ってたなぁ。元親が誘わないなら…俺が誘っちゃおうかなー」
「ちょっ」
「そこの3人、ぶん殴るぞゴルァ!!早くコート入れ!」
 ついに政宗に怒鳴られ、佐助と慶次は「はいよ~」と抜けた返事をしながらコートに向かった。残された元親も、慌てて後を追いかける。

「元親次第だぜ」
「―――!」

 ふと振り向いた二人にウインクされ、元親は息を飲んだ。元親次第―――元親が行動を起こしさえすれば、まだ、どうとでもなるのだと言う。実際その通りであろう、幸村はまだ元就を誘っていないのだから。
「…………」
 誘えば、来てくれるのか…分からない、分からないが、動かぬことには何も始まらない。
 パァンッ、と思い切り両頬を叩いた。体育館に響き渡ったその音に、何事かと皆が元親の方を向くが、元親は気にすることなくコートへと入った。スリーオンスリーのミニゲームの為に集まっていたメンバーは目を丸くしている。
 うじうじしていても仕方がない。
「―――っし、始めっか!」
 いつもの元親が戻ってくると、コートの外からアニキコールが沸き起こった。


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