でも弥三郎は始終べそべそしてる
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時折、弥三郎には本気で殺意が芽生える。松寿丸はずきずきと痛む後頭部を押さえながら、真上にある弥三郎の顔を見上げた。
表情はよく見えない。軽く揉み合った結果、倒れ込んだ足の方に灯篭が立っていた為、そこから放たれる明かり程度では室内にまで及んだ夜の帳は開けず、弥三郎の体で影を作られた松寿丸の視界は暗かった。
だが泣いているのはわかった。いつものように、情けなく洟を垂らした汚い顔で泣いているのだ。荒い呼吸と、上から降ってくる生温い水滴が松寿丸の頬を湿らせた。
「……………」
弥三郎の方が二つ年下なのに、身長は既に松寿丸を一寸以上超していた。ろくな鍛練もしていないくせに力も強いし、こうして床に押し付けられると身動きが取れない程だった。
せめて自由な脚で無防備にしている腹でも蹴り飛ばしてやろうかと考えたが、股間の未熟な一物を弥三郎に握られていたので松寿丸はじっとしていた。万が一生殖能力を失ったら、松寿丸は途端に毛利にとって不要な塵と化すのである。抵抗して捻り潰されることが怖いのではなく、ただ只管に毛利から見放されることが恐怖だった。
松寿丸は弥三郎を睨んだ。ごめん、ごめんなさい、ごめんね、とうわ言のように繰り返すだけで、松寿丸の肛門の襞を指の腹で撫でさする弥三郎はその行為を止めなかった。
「…ぃっ…」
不意に指を一本そこに捩じ込まれて、松寿丸は頬の筋肉をひきつらせた。
痛いよねごめんね、と涙に滲んだ弥三郎の声が聞こえたが、殺意しか浮かばなかった。相変わらず弥三郎の左手は松寿丸の陰茎を握っていたから、ささやかな抵抗の意を示すために、着物の袖から覗く弥三郎の白い腕に爪を立ててやる。すると弥三郎は、うう、と小さく呻いたが、松寿丸の頬に降り掛かる涙の量が増えただけだった。
「……ぅ」
幼くして聡明な松寿丸は、力めば痛みを増すと言うことにすぐに気付いた。弥三郎に加担するようで癪だが、腹でゆっくりと呼吸をすると、更に奥まで弥三郎の指が入ってきて額に脂汗が浮かぶ。
今更になって、何故このような行為を強いられているのかと松寿丸は疑問に思った。だが、弥三郎が陰茎から手を離さない限り逃れる手段はないので、諦めるしかなかった。
「…ぐっ…」
恐らく今まで入っていたのが人差し指で、今横から挿入されたのが中指なのだろう。その二本の指を穴の中で左右に開くようにされて、肛門を無理矢理拡げられる痛みに松寿丸は思わず呻いた。
「…はあ…ぁ…、…………」
弥三郎に対する怨言を口の中で呟いた。続けて、犬畜生が、と松寿丸は声にしたが、弥三郎が鼻を啜る音でかき消された。
陰茎を握る弥三郎の握力が少し増した。肛門から抜かれた指は内部の粘液に少し湿っていたが、空気に触れるとすぐに乾いて、その指で押し広げられた松寿丸の素足にぺたりと貼りついた。
不快だ。全てにおいて、不快感が募る。
相変わらず弥三郎は松寿丸の真上から、ごめん、と言う言葉と涙を落していた。泣くくらいならば止めればいい。だが弥三郎が松寿丸の前で泣くことは日常茶飯事であったし、ごめんごめんと無意味に謝るその口で、好き、好きです、好きなんだ、と吐露していた。
だが如何せん、松寿丸にとって弥三郎は嫌悪そのものでしかなく、理解出来ないその行動全てに殺意を覚えるのだ。
「ぅ……や、弥三郎…」
松寿丸はたまらず弥三郎の名を呼んだ。恋しいからではなく、今すぐにでも首を絞めてやりたかったから、呼んだ。
ますます握りしめられる陰茎は痛みを訴えていたし、それ以上に、肛門にあてがわれた弥三郎の陰茎の先端が肛門にめり込み、松寿丸は鼻の頭に皺を寄せて思い切り目をつぶった。
「うっ…ぁっ」
痛い、痛いよねごめんね、ごめん松寿丸、などと言いながら泣きじゃくる弥三郎に、泣きたいのはこっちだ、と怒りに手が震えた。
先ほどからずっと弥三郎の腕に爪を立てている松寿丸の手は、最早抵抗ではなく縋っているようだった。みちみちと音を立てて弥三郎の陰茎が松寿丸の中に侵入していく。
「…あ…あー…っ!」
松寿丸は初めて貫かれる激痛に思わず仰け反った。根本まで突っ込まれても、休む暇もなく奥の方で小刻みに揺らされ、松寿丸の肛門は悲鳴を上げるようにきつくきつく弥三郎の陰茎を絞めた。
その時、痛い苦しいと弥三郎が呻いた。弥三郎の手に握り込まれた松寿丸の柔らかなままの陰茎は、弥三郎の握力で形を歪ませていた。
「き…きさ…ま…」
弥三郎には生きている価値がない、と松寿丸は思った。まるで馬の糞のような、足が何本もあるおぞましい害虫のような、弥三郎はそんなものだと松寿丸には思えたのだ。
「はあ、はあ、はあ」
己のことしか考えていない。世界が狭すぎる。泣けば何をしてもいいとでも思っているのか。
「死ね…死ね、弥三郎、貴様など、我が殺す、殺してやる………あ、あぁ」
また、ごめんね、と声が聞こえた。好きだよ、とも聞こえた。だが松寿丸はその声に応えることなく、弥三郎の涙で濡れた自分の顔面を腕で覆い、弥三郎を視界から遮断した。
だから松寿丸には見えなかった。
灯篭の仄暗い光に微かに照らされ輝く弥三郎のその片頬には、笑窪が一つ浮かんでいた。
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松寿丸はもっと弥三郎ガン無視系でも良かったな…と思いつつ、お尻痛かっただろうからしょうがない…
ツイッターでお世話になってるKぶなさんとお話してたら萌えたぎってやってしまいました。ありがとうございます!
もうお一方とお話したラブラブ弥松も書きたいな!!
ほんと弥松は天使すぎてハアハアしますね。
すみません弥松フィーバーで… 大好きです
22年2月22日…だと…!めっさ猫の日めでたいということで
(注意書き忘れました…すみませんorz 過去弥三郎×松寿丸と、今元親×元就で二人とも猫化です)
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「弥三郎、弥三郎」
松寿丸は畳に寝そべる弥三郎の上に、圧し掛かるように覆いかぶさった。
弥三郎の銀色の毛並みはふわふわとしていて気持ちが良く、松寿丸は暇さえあれば弥三郎の尻尾に顔を埋めていた。その為、今も弥三郎の尻尾の方に松寿丸の顔があり、つまり松寿丸の細くて小さな足の裏は、弥三郎の頬を押し潰していた。
「しょ…しょーじゅ…いたひ…」
しかし払いのけないのが弥三郎の優しさである。
「我も銀毛がよかった」
「…ぼく、…松寿丸が好きだよ」
「我は銀がよかったのだ」
「……………」
弥三郎は決死の告白を軽く流され、がっくりと項垂れた。弥三郎の尻尾は毛が長く広がっているが、松寿丸の尻尾は美しい朽葉色の短毛が、長い尾骨に沿って生えそろっている。弥三郎は可愛い松寿丸自身も、松寿丸の美しい毛並みと色も大好きだったが、松寿丸は弥三郎の毛並みが羨ましいと言う。
「脱色したら我も銀になるだろうか…」
「そんなことしたら毛が痛んじゃうよ!松寿丸はそのままで全然可愛いし綺麗なんだから…」
「…相変わらず女々しい奴よな、我は可愛いだの綺麗だの言われるよりも格好良い、たくましいと言われたいのだ」
「…だって、本当に松寿は可愛いんだから仕方な…あでっ」
「うるさいっ」
噛みつかれて痛かった尻尾を弥三郎が振ると、松寿丸は爪を出して戯れ始めた。
「おーい元就」
「…なんぞ」
それぞれ元服して元親、元就となった弥三郎と松寿丸は、今日も陽の当たる縁側で日向ぼっこをしていた。
「ほれほれ」
「……………」
大好きな日輪を仰いでいた元就の目の前で、ふさふさの尻尾を振る元親を、元就は冷ややかな目で睨みつける。
「なんだよ、ノリが悪いな」
「貴様はいつになったら童子から卒業するのだ…我が貴様如きの尻尾で遊ぶ筈がなかろう」
「昔はよくじゃれてきてたのに…まあ今では俺があんたの上に乗るまでになったが…いでっ」
「その口を閉じよ!」
元就は元親の尻尾に噛みついた後、目を閉じるとそのまま縁側で丸まった。
幼いころ、松寿丸が弥三郎の毛並みを羨ましがっていたのは、弥三郎の方が年下のくせに体格が良かったからだ。おまけに毛並みはふわふわで陽の光に透けて美しく、もしも弥三郎の尻尾がそのまま自分についていたら、セルフ抱き枕に出来るのに、と松寿丸は思っていた。
今でも布団の中では元親の尻尾に戯れるのだが、流石に昼間から元親の上に乗り掛り、幼子のように尻尾に顔を埋めることはもう出来ない。
「俺、元就が好きだぜ」
「…そのようなこと、ずっと昔から知っておる」
我慢しているのか尻尾は動かなかったが、そっぽを向いたままの元就の耳がぱたぱたと動いた。
「元就も俺が大好きだよな」
「…貴様の毛並みだけな」
「照れんなよ」
「……うるさいっ」
ますます丸まった元就に、元親が覆いかぶさった。
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だれか初心者向け猫カフェを教えてけろ…東京神奈川で
明日くらいにもうちょっと真面目に書いたやつ上げる予定です~!そっちはなんかホモホモしいやつ。
とりあえずお暇つぶしにどうぞ…(__)
にょ就ぽいけど男のままで読んで下さってもだいじょぶです。
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「長曾我部は抹茶が嫌いらしい」
椅子に横向きに腰掛け、後ろの毛利の机で頬杖をつきながらぼーっと窓の外を眺めていた俺の耳に、それまで黙々と読書をしていた毛利の声が飛び込んできた。
俺的にはかなりどうでもいい話なんだが、こいつから話し掛けてきたことがとても珍しくて、俺は思わず「へえ、そうなのか」と返してしまった。長曾我部と言うのはこいつの彼氏で俺のダチだ。高校に入ってから仲良くなった元親――長曾我部の名前だ――が、毛利に一目惚れした所から二人の関係は始まった。毛利と中学が一緒だったと言う理由で紹介をせがまれた俺は、つまりこいつらのCupidと言うわけである。そうでもなきゃ、あの元親がこんな人気のない放課後の教室で、自分以外の男と毛利を二人きりにさせるなど有り得ない。
「だから今度のバレンタインには、抹茶の菓子を作ってやろうと思っている」
「…え…いやいや…嫌いなんだろ?」
「だからよ」
…うーん…。
毛利は時々わけがわからねえ。たまに、つうか結構頻繁に元親のこと嫌いなんじゃねえかと思わせるような事を言ったり、嫌がらせに近い行動をしたりする。
今みたいに嫌いな食べ物をあえて食べさせようとしたり、元親とは情けで付き合っているとか、SEXが下手過ぎてつまらないとか、そういうことを俺に言う。お前こんなことを言われていたぞ、なんて俺から元親に伝えるのは筋違いだと思うから俺は毛利の愚痴を聞くだけだし、毛利も俺が元親に言わないことを分かっているから俺に話すのだろう。じゃあ別れればいいじゃねえかと返しても、情が湧いたから、と言ってよく話を打ち切った。毛利は一体何がしたいんだよ。
「抹茶と見せ掛けてワサビをふんだんに使ってもよいな」
「…アンタなあ…大体匂いでわかるだろ」
「あやつは我の手作りであれば何でも食べる」
「………そうかよ」
不思議だ。面倒臭いからこいつらの関係を気にかけてやるつもりは毛頭ないが。
「あと、あの男はホワイトチョコレートが好きらしいな」
「…ふうん」
んなこと知らねえし、正直興味もねえ。
「ホワイトチョコレートにワサビを混ぜるか…」
「……………Oh…」
crazyだな。
とかなんとか言っておいて、毛利の奴は。
「え?元就から?当たり前だろ」
「……どんなチョコ?」
級友の前田から聞いた話ではなんでも、元親と毛利は、十四日に駅前の公園のベンチで仲睦まじく談笑していたらしい。おまけに毛利は学校での地味な制服姿からは想像出来ないような、清楚で華美になりすぎないながらも、思わず人目を惹くようなお洒落な姿で元親の隣にいたのだと言う。まあ当然、そこでバレンタインデーのチョコレートを渡したってことだよな。例の…ワサビがどうとかっていう。
なのに―――――信じられるか?
「ホワイトチョコのムースだよ。スゲー美味かったし元就可愛いしで最高だったぜ…」
「……………」
「俺がホワイトチョコ好きだって言ったら作ってくれてよ~、俺って世界一の幸せ者だよな」
なあ…俺、もしかしてからかわれてたのかな。いや、俺をからかって何になる。毛利が無駄なことを嫌う奴なのは十二分に知っているからそれはない。
じゃあなんだよ。
「…今朝一緒に登校してたのは日曜の夜に泊まりか?」
毛利は別のクラスだが、別れ際は今まで通りにあっさりしている、と言うか冷たかった。俺に対してじゃない、元親に対してだ。付き合っていることを疑いたくなるほどに、つまり普段通りだった。
「ああ、…昨日よ、いつも以上に気持ち良かったのか元就の奴、泣き喚いて失神しちまってさ」
元親はSEXが下手だとか散々愚痴ってたじゃねえか。
「え…なんか、俺はてっきり…毛利はお前のことあんまり好きじゃねえのかと…」
「はあ?何でだよ」
「いや…その」
何でと言われても、
「そもそも、お前に紹介してくれって頼んだのは俺だけど、その後告白してきたのは元就からだぜ」
……Shit!
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王子様、ガラスの靴を拾ってよ
本州から離れたとある島に住む長曾我部元親は、齢二十を過ぎてなお非常に夢見がちであった。極度の人見知り体質の所為で幼い頃は周囲から姫若子と蔑まれ、益々部屋に引きこもって俯き絡繰りばかりを弄っていたので、大人になった今でも少し猫背気味である。しかし胸に秘めた夢と言う名の野望は何処までも広く大きく、姫若子と呼ばれていた頃より隣国のある少年を嫁にすると決めていた。
二年前に父親が死去して以来、元親は長曾我部家の当主として日々を忙しく過ごしていた。十代後半から心身共に急激に成長し始めた彼は、今では海の荒くれ者達を統率するまでになった。今まで元親を姫若子と馬鹿にしていた家臣は人が変わったように元親に尽くし、南蛮からやってきた商人より買い取った珍しい鸚鵡と言う鳥を元親に献上した。
しかし、幼い頃からずっと元親の将来を心配していた老臣ははじめこそ彼の成長を喜んでいたが、「俺は海賊王になる!そしてアイツの大切なものを盗むんだ…」と何かにつけて海に出たがるようになった元親を、ある日ついに執務室に閉じ込めてしまった。海やら何やらに夢中になりすぎて、国務を疎かにしすぎたのであった。
元親は様々な手を使って執務室から抜け出そうと試みたが、その度に邪魔をされ、いつの間にか話し相手は鸚鵡のピーちゃんだけになっていた。
「モトチカ、モトチカ」
下手をすれば元親よりも賢いかもしれないピーちゃんが、西に面した小さな格子窓の隙間から執務室に入ってきた。外ではもう陽が沈みかけていた。
「ピーちゃん、何処に行ってたんだよ」
朝から姿の見えなかったピーちゃんが帰ってきたことに元親は喜んだ。元親の肩にとまるなり、ピーちゃんは頻りに「ヨメ!ヨメ!」と鳴きはじめた。
「ヨメ?嫁のことか?」
「ヨメ!アキ!アキ!ヨメトリ!」
「秋に嫁取り…?」
ピーちゃんの断片的な言葉を繋ぎ合わせて元親は考える。ピーちゃんは少しだけだが人語を理解していた。理解はしていなくとも、何度か連呼された単語はすぐに覚えて言葉として発することが出来るので、元親は時々、あえてピーちゃんを城に放ち様子を窺う時もあった。もしかしたら、家臣達は秋になったら元親に嫁を娶らせるつもりなのかもしれない。
だが、このままではまずい。元親は既に、嫁に貰う相手を心に決めている。
「ちっ…だから俺はアイツ以外を嫁にする気はないって何度も……」
「ヨメ!ヨメトリ!」
「おう、今からでも対策練っとかねえとな」
「モリ!モーリっ!ウタゲ!モーリっ!アキ、ヨメトリ!」
「………ん?」
元親は耳聡くピーちゃんの声に片眉を上げた。
「………毛利…安芸………」
頭に浮かんだ単語を口の中で小さく呟くと、今度ははっと顔ごと上げた。
「毛利がっ!安芸で嫁取りの為の宴を開くってことか!?」
何を隠そう、元親は幼少時に一度だけ面識のあった安芸の毛利元就―――出会った当時は松寿丸と言う少年であった―――に恋をしていた。色褪せることのない元就の記憶は、歳を重ねるごとに重みを増し、元親の心を捕えて離さない。そういう理由で、元親は元就に関することに対しては異様な推察力が働くのであった。
それでは尚更、自分が嫁を取らされるよりも都合が悪い。有り体に言えば、毛利の現当主、元就の嫁探しの為の宴と言うわけである。いつ宴が開かれるのかはわからないが、元親はなんとしてもこの部屋から出なければならなくなった。元就は嫁を取る立場ではない、西海の鬼の異名を持つこの長曾我部元親に娶られるべき存在なのだ、と声を大にして叫びたかった。
「くそっ、こんなところでまごついてる場合じゃねえ!」
元親は立ちあがると部屋の中をうろうろと歩き回った。なんとしても、宴に行かなければならなかった。
それから数日が経った。相変わらず溜まりに溜まっていた大量の仕事に囲まれた元親は、億劫そうに筆やら手やらを動かしていた。
しかしその日は城の中がどこか慌ただしかった。気になった元親は仕事を放り投げ、壁際に張り付き耳をそばだてながら、家臣達の足音を聞いていた。
「なんだか落ち着かねぇな…まさか今日、安芸で…」
精神を集中させれば、執務室から離れた家臣達の声も聞こえるような気がした。それにより得た答えは、やはり本日、安芸の毛利元就の元に各地の大名の娘達が集まり、才色兼備で目が眩む程美しい元就をモノにしようと企てる女達の熾烈な争いが繰り広げられる、というものだった。
元親は頭からさっと血の気が引くのがわかった。このままでは元就の貞操が危うい。
「やべえ、やべえ!くそっ、ここから出る手立てはないのか」
見張りの兵に扉を開けてくれと頼んでも、無言で俯くばかりで埒があかなかった。元親の当主としての威厳はどこへ行ってしまったのだろうか。焦りばかりが募り、小窓の格子を掴む手に汗が滲む。
窓の外の海の向こうに、あの日と変わらぬ元就の姿が浮かんだ。――――会いたい。出来ることならば貴方と合体したい。
「頼む!俺を安芸へ行かせてくれーっ!」
元親は力の限り叫ぶと、がっくりと項垂れた。
「あらら鬼の旦那ってば、本当にこんな所に閉じ込められちゃってるわけ?」
唐突に格子窓の方から声が聞こえ、元親は勢いよく顔をそちらに向けた。
「……オメェは…甲斐の!」
この執務室は城の三階に位置するのだが、そこにいたのは甲斐の真田忍隊隊長、猿飛佐助であった。
「どうも~、この間の真田の旦那との手合わせぶりかな」
「おう、あん時は世話になったな」
ここに閉じ込められる前、元親は強者を求めて日の本を旅していた。甲斐に立ち寄った際、城下町の団子屋で何十本と言う団子を頬張っていた真田幸村と偶然出会い、意気投合するまま腕くらべをしたのだった。その場に居合わせたのがこの佐助だった。
「旦那がまた鬼の旦那と手合わせしたいって言うからさ~、一応お誘いに来たんだけどなんだか取り込み中?」
「…はっ、そうだ!」
近くに屋根や足場のないこの小窓に、果たして佐助はどのような体勢で顔を覗かせているのかが気になったが、元親は頭を左右に振って雑念を散らした。
「俺をここから出してはくれねぇか。今日、行かなきゃならねぇ場所があるんだ」
元親は真剣な顔で願い出た。
「ここから出してって…」
「後生だ!頼みの綱はもうオメェしかいねぇ!」
土下座せぬばかりの勢いで頭を下げる元親に心を動かされたのか、それとも頼まれることに弱いのか、佐助はしばし迷った後、協力を承諾した。
城内に忍び込んだ佐助が見張りを気絶させて扉を開けると、そこには何故か男泣きしている元親がいた。その姿を見て、佐助は益々心を打たれていく。改めて事情を聞いた佐助は、どこぞの風来坊ではないが、恋はいいものだよなあ、と幼馴染の金髪の少女を頭に浮かべながら思ったのだった。
「明日の朝餉に間に合うように帰らないと真田の旦那がうるさいから、必ず子の刻までには戻ってきてよ」
すっかり元親と瓜二つに変化した佐助は、いそいそと机に向かった。
「まあ頑張ってきなよ、いってらっしゃい」
「おう、ありがとな!」
ここに来る途中の元親の私室から碇槍も持ってきてくれた佐助に礼を言うと、元親は弩九に乗って執務室から飛び出した。
実に五日ぶりの娑婆の空気だった。
つづく
大神×BASARAっていうか、むしろ元就がアマテラスだったら萌えるんじゃね?と思っての元親×アマテラス毛利です
もうほんっと元就は大神の世界にいる方がむしろしっくりくるというか、えっ筆神使えるんだよね?レベルのマッチ具合だと思います…はあはあ
1月東京シティを申し込んだのでコピ本か何かでアマテラス毛利を出そうと思ったんですが、なんか脳内で壮大になりすぎて挫折しました笑 あと戦闘シーン苦手なのでうじうじしました…orz
新しい本、何か出せたらいいんだけど…
てことで草案で申し訳ないですが没ったのでアマテラス毛利晒します
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初めて対峙した時から毛利元就は普通とは違っていたように思う。元親自身、そもそも己を普通と言うのが果たして妥当かどうかは判断がつかないが、それでも元就は特異だった。
戦を仕掛けたのは長曾我部からだ。瀬戸内海の西部に位置する厳島神社へ誘い込まれ、苦戦を強いられた。味方をも囮にして勝たんとする戦略に、頭に血を上らせた元親が一人で駆け込んだ本殿で待っていたのは異様な空気を纏った元就だった。
―――― 鮮麗。元親の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。もえぎ色の鎧は若葉のように瑞々しい。内から湧き出す輝きを抑えきれず、見る者を全て魅了するかのような神々しさが、そこにはあった。如何に神の島と称されるこの厳島でも、血生臭い戦場であることに変わりはない。故にその姿は正しく異様だったのだ。
汚れの無さが元親の闘志を増長させた。元就だけが綺麗であることが気に食わなかった。元親は引き寄せられるように前へ進み出で碇槍を振るったが、しかし元就は物ともせずにするりとそれを交わした。まるで舞を舞っているかのように―――― 元親の攻撃さえも演舞かと思わせる程、優雅に、強かに、輪の形をした大振りの刀で空気を裂いた。
「あと少し…我が策の完成よ」
元就の声を聞き届けた直後、元就の背後に近付く一隻の船が目に入った。
「っ毛利! …………あ…っ!?」
元親が逃がすまいと碇槍を振りかぶったと同時、元就の体は欄干を越え、十間は離れた船の甲板へと着地した。瞬く間に目の前から姿を消した。助走をつけたとしても常人には到底届かぬ距離を、元就は軽々と跳躍してみせたのだった。
「……な……、」
あんぐりと口を開いていた元親だったが、背後に感じた気配に咄嗟に振り返り、碇槍を薙いだ。小枝を払うような音を立てて、数本の矢が床に散った。
「我に戦を仕掛けたこと、降り注ぐ毛利の強弓をその身に受けて、確と後悔するがよい」
元就の言葉と同時に、弓を引く幾つもの音が元親の耳に飛び込む。ざっと周りを見渡せば、そこにはいつの間にか弓を構える毛利兵達が元親を囲んでいた。
間髪入れずに放たれた何十もの矢に、元親は大きく舌打ちした。
「甘ぇ!」
元親は弧を描いて飛んでくる矢を、碇槍から噴き出した炎で残らず燃やし、叩き落とした。更に襲い来る後発の矢も全て防ぎきると、元親は去り行く船上の元就を睨みつける。
「逃げんじゃねえ毛利! この程度で俺を仕留められるとでも思ってんのか」
元就の目が細められた。
「ほう…ならば、これはどうか」
「あ……?」
「弓兵!」
元就の声に、また弓の軋む音が響いた。放たれた矢に元親は身構える―――― だが、今回は様子が違った。
「な…何…だっ…?」
こちらに向かって飛んでくる何の変哲もない矢の先端が、何かでぼやけて見える。鏃に纏ったそれが水の珠だと理解した瞬間、元親は慌ててその場から飛びのいた。
「み、水!?」
恐ろしい速さで床に突き刺さった矢の周囲に水が弾け、一帯はあっという間に水浸しになった。元親の炎さえ消してしまいそうな重い矢は、次々に放たれ元親を狙う。
「くそ…!」
門はかたく閉じられ、背後は海。逃げ場はない。だが元親には碇槍がある。
戦を吹っかけ大口を叩いた手前、敵前逃亡は情けないが、一旦退くのも手だった。弩九で水面を走れば、仲間の元まで引き返すことが出来る。元就とて元親の前から逃げたことに変わりはない。
これで相子だ、と元親は弓兵の隙を見て、手に鎖を、碇部分に足をかけた。そして海へ向かおうと体重を後ろにかけた矢先――――。
轟音とともに、元親の目の前に雷が一閃した。
「……………なっ…………」
水面を激しく打った雷は弾け飛び、水しぶきとなって元親の頬を濡らした。
空は水平線の彼方まで青く澄んでいる。落雷を伴う雨雲など浮かんでいる筈もなく、ならば今の強烈な雷は一体どこから現われ、落ちたと言うのか。
元親は、もう随分と遠くなった船の上の元就を見た。この少しの間に不可思議なことが起こり過ぎている。もしかしたら、自分はとんでもない相手に喧嘩を売ってしまったのではないかと自問した。
しかし考えている暇はない。逃げ場を失ったのならば、道を切り開くしか方法はないのだから。
新たに弓を引いた兵達を振り返る。
「―――― 消えちまいな!」
元親は叫ぶと、碇槍の柄を右手から左手に持ち替えた。船上に佇む元就の横に巨大な虎が寄り添うように見えたが、気のせいだったのだろうか。
◆
「はぐっ、はがっ、むっんがっ、むぐ………ぐっ!? ぐっ、うっうっ、うっ」
一心不乱に握り飯にかぶりついていた元親の動きが止まった。どうやら詰め込みすぎたらしく、米の塊を喉に詰まらせ苦しさに顔を真っ赤にしながら胸を叩いていると、見兼ねた部下の一人が元親の背中をさすった。元親は必死で伸ばした手に水筒を渡されると勢いよく口に運ぶ。これまた大量の水を口に含み、豪快に喉を鳴らして無理矢理に握り飯ごと胃に流し込むと、大袈裟に息を吐き出した。
「あー…死ぬかと思った」
「戦でも死なないアニキが握り飯詰まらせて…なんて格好悪いっスよ…」
確かにそんな死に方は遠慮したい。折角先日の毛利との戦で九死に一生を得たのだから、命は大切にしたいものだ。
「それにしても、本当に良かったっス…アニキもう帰って来ないかと…うっ」
「おいおい泣くんじゃねえよみっともねえ! 必ず生きて帰るって誓ったろう」
「アニキいい~!」
笑いながら乱暴に部下の頭を撫でる元親は笑っていたが、しかし、部下達が心配するのも当然と言えば当然だった。
元就が去った後、益々増えた弓兵に元親は苦戦していた。戦極ドライブを解放しても、飛び道具の多勢に囲まれれば四方八方に気を巡らせなければならない。体力も徐々に削られ、防戦一方だったその時、何か強大な力が元親の背を押した。
辺り一帯がまがまがしい暗闇に包まれたかと思えば、手にしていた碇槍が普段の倍以上に重くなるのを感じた。だが重量を感じるのとは反対に、振り上げた碇槍は驚く程に軽かった。
部下達が漸く本殿に駆け付け、門をこじ開けると、そこは床も柱も全てが朱に染まり、その中央に何本もの矢を受けて倒れ伏せる元親がいた。
元親は部下達に「得物を振り回していたらいつの間にか生き残っていた」と話した。間違いではないが、実のところ途中から記憶が曖昧であった。正確には、あの暗闇に包まれてから、だ。
――――― まるで、自分が自分ではないような感覚が全身を支配した。
「でも暫く安静にしてくださいね、傷はまだ塞がってないんスから」
「おう、悪いな」
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無意識に常闇ノ皇に乗っ取られる元親がアマテラス毛利ともだもだする感じの話でした…
毛利はタカマガハラに住んでいたに違いない 今のおうちは厳島